Quantitative Psychology of Cultural Taste | |
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阪大感性情報心理学研究室>論文>abstract
打楽器演奏における感情の表現と伝達に関する心理学的研究
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音楽と感情は密接な関係があり、両者の関係についての定性的・記述的な研究は多く存在する。ピアノやフルートなどでの演奏による感情表現の研究もいくつかなされているが、そこでは音色、音高や楽曲の調性などの複雑な要因が交錯している。そこで本研究では、演奏者の利用できる音響的手がかりが比較的制限される打楽器を扱うことし、「スネアドラム演奏における演奏者の意図する感情はどのように表現され、聴取者にどれほど伝達されるのか」という問いに対して、音楽演奏と感情表現に関する先行研究を踏まえつつ、定量的・科学的データに基づいた法則性や傾向を求めるために3つの実験を行った。 実験1では、打楽器演奏の熟達者に4種類の感情(怒り、恐れ、楽しい、悲しい)と無感情の計5条件について、スネアドラム小曲2曲を各条件の感情が聴取者に伝わるよう防音室内で演奏してもらい、録音した。全ての収録が終わった後、それぞれの条件について演奏に対する満足度を調べるとともに各条件の演奏意図を形容詞対の評定で調べることで、演奏者が5条件に違いを持たせて演奏し、かつ満足行く水準で感情表現ができたことが確認できた。 実験2では、収録された演奏音を多数の被験者に聴取してもらい、表現された感情が伝達されたかの評定(伝達評定)、および聴取から受ける印象の評定(印象評定)を行った。伝達評定では4種類の感情語と無感情の逆転項目である「感情の豊かさ」の5項目について11件法で、印象評定では実験1の演奏意図の測定で用いた18の形容詞対について7件法でそれぞれ評定してもらった。伝達評定の結果、該当する条件の評定値が無感情評定値よりも有意に高くならなかったものがあった点、恐れ演奏と悲しい演奏において恐れ評定値と悲しさ評定値で有意差があるとはいえなかった点を除くと、表現された感情は概ね聴取者によく伝わっているといえる結果であった。印象評定の結果では、2曲ともほとんどの形容詞対で「怒り>楽しい>無感情>恐れ>悲しい」の順序で正の印象から負の印象へ評定された傾向が見られた。 実験3では、得られた演奏音を音響的・物理的に測定した。測定は、音の強さ(音量)とテンポ(時間計測)の2点について、それぞれ全体の平均と変動を調べた。その結果、2曲とも全体の平均では怒り条件が最も全体音量が強くてテンポが速く、楽しい条件、無感情条件、恐れ条件と順に続き、悲しい条件が最も全体音量が弱くてテンポも遅かった。これは、実験2の印象評定の結果と一致するものであった。また変動の大きさは測定対象によるわずかな違いは見られたものの、実験1での意図の測定と関連付けて補正を行ったところ、音の強さ・テンポとも「怒り条件>楽しい条件>無感情条件」および「悲しい条件>恐れ条件>無感情条件」の順ではないかという示唆が得られた。 本研究では音高や調性のないスネアドラムを用いたことで、音楽演奏における感情の表現と伝達についての厳密なデータを得ることができた。今後、楽曲の種類や演奏者を増やすとともに、他の楽器や音楽以外での感情表現場面と関連付けることで、人間の感情表現・伝達のメカニズムを明らかにすることに貢献できるであろう。 |