佐藤正樹の心理学実験に参加して頂いた皆様へ
お礼と実験の結果報告をさせて頂きます。
実験1・集団聴取実験の概要
日時:2003年11月18日
場所:豊中キャンパスB棟講義室
中村敏枝先生の「心理行動科学入門」を受講されていた方々にご協力頂きました。
実験2・個別聴取実験の概要
日時:2003年12月1日から12月15日
場所:吹田キャンパス人間科学部防音室
実験者が個別にご協力のお願いを致しました。
参加者の皆様、長時間にわたる実験にご協力いただき、本当にありがとうございました。
実験結果
はじめに
現代のストレス社会では、人は様々なストレス原因により、抑うつ的な気分におちいりがちです。
抑うつ的な気分が慢性的に続くと、現代人に特有の心身の障害につながると考えられています。
抑うつ気分を緩和するためには、音楽を聴くことが有効な手段の一つです。
音楽を聴くと、その音楽の持つ印象に近いように、聴いた人の気分が誘導されると言われています。
明るい音楽を聴けば明るい気分に、暗い音楽では暗い気分になる、というのは多くの人が経験的に感じていることでしょう。
ただ、音楽を聴くことで本当に気分がいい方向に誘導されるのか、実証的に明らかでない点が多いのが現状です。
そこで本研究では、音楽を聴く前と後で気分状態を比較し、音楽を聴いたことによる気分への影響を見たいと思います。
まず実験1では、テンポと調が音楽の印象にどう影響するのかを調べます。
次に実験2では、実際に音楽を聴く前後での気分の変化を検討します。
実験1・集団聴取実験
「短調・長調で音楽の印象は変わるのか?テンポの違いで音楽の印象は変わるのか?」ということを調べるための実験でした。
調2種類×テンポ5段階+練習評定3つの合計13の音楽について評定して頂きました。
その結果は図1のようになりました。
図1.音楽の抑うつ的印象評定値の平均(最大値は54)
まず、縦軸で上の方が抑うつ的印象が高いことを示しています(簡単に言うと、音楽が暗い感じがすると考えて下さい)。
横軸では、左の方がテンポが遅く、右の方が速くなっています。
つまりテンポの遅い曲は抑うつ的な印象が高く、テンポが速くなるにしたがってその印象は低くなっていることが示されました。
また、下の方のピンク色の折れ線は長調の音楽で、これと同じ旋律を短調にしたものが上の紺色の折れ線です。
つまり、短調の曲は抑うつ的な印象が高く、長調は低いことが示されました。
実験2
次に、音楽を聴く前と後での気分の変化を見ます。
本研究では、音楽を聴く順序が気分変化に及ぼす影響を見たいと考えました。
例えば「明るい曲から暗い曲へ」と聴くよりも、「暗い曲から明るい曲へ」と聴いた方が気分は効果的に明るくなりそうだと考えられますが、これを実験的に検証してみたいと思います。
実験1で使用したのと同じ曲を使って、各被験者に、以下の4条件のいずれかを聴いてもらいました。
�短調・加速条件:短調の旋律で、テンポの遅い音楽から速いものへと、だんだん速くなっていく
�短調・減速条件:短調の旋律で、テンポの速い音楽から遅いものへと、だんだん遅くなっていく
�長調・加速条件:長調の旋律で、テンポの遅い音楽から速いものへと、だんだん速くなっていく
�長調・減速条件:長調の旋律で、テンポの速い音楽から遅いものへと、だんだん遅くなっていく
その結果は、図2のようになりました。
図2.聴取前後での抑うつ気分の変化
短調・加速と短調・減速は前後でほとんど変化がないのに対し、長調・加速と長調・減速では抑うつ気分が低減されたことが示されました。
つまり、この実験では、全体的に明るい印象を持たせる長調の曲によって抑うつ的な気分が緩和される可能性が示されました。
ここで、音楽を聴く順序に関しては、加速と減速の間で差が見られませんでした。でも、これだけでは「順序が気分に影響しない」などと強く主張することはまだできません。今回は音楽を聴く時間が3分程度と短いこともあり、もっと長い時間での実験の結果と合わせて総合的に議論される必要があるといえます。
—以上です—