Quantitative Psychology of Cultural Taste
 

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作品における背景音楽がストーリーの結末予測に与える影響

 映像作品において背景音楽の存在はなくてはならないものとなっている。それに伴い、背景音楽が認知や感情に与える効果についての心理学的研究も進みつつある。本研究は、そうした先行研究を踏まえ、映像作品における背景音楽が映像全体の印象を形成するのにどのような影響を与えるのか、また、ストーリーの結末予測にどのように影響するのかを検討するのが目的であった。組み合わせる音楽によって映像全体の印象は変化し、音楽の印象の方向に傾くと考えられる。また、ストーリーの結末予測においても、音楽の影響を受けると予測される。

 実験1の目的は、実験2で刺激として用いる音楽と映像を選出することにあった。映画のサウンドトラックなどから選んだ6種類の音楽と、映画を全体の流れがわかるように3分程度の長さに編集した3種類の映像を、被験者に視聴させ、音楽と映像の印象を評定するために作成した評定用紙を用いて評定させた。映像については、印象評定に加えて、結末予測(「明るい‐暗い」等)を問う評定紙にも評定させた。刺激ごとに印象評定における各尺度の得点を求め、平均値を算出し、音楽・映像同士で比較を行った。刺激の選出はポジティブ‐ネガティブを軸に行い、ポジティブな印象の音楽2種類(音楽1、音楽2)とネガティブな印象の音楽2種類(音楽3、音楽4)、ネガティブな印象の映像1種類(映像2)とそれと比較する意味で曖昧な印象の映像(映像1)を選出した。

 実験2では、実験1で選出した音楽と映像を組合せて4種類の刺激(刺激1;映像1と音楽3、刺激2;映像2と音楽1、刺激3;映像1と音楽2、刺激4;映像2と音楽4)を作成し、背景音楽が映像全体の印象、ならびに、ストーリーの結末予測に及ぼす影響を検証することを目的とした。被験者は、実験1で用いたものと同じ質問紙で評定を行った。本研究では音楽による影響を調べるため、映像が同じで音楽が異なる刺激を比較した。その結果、ポジティブな音楽をつけた刺激では全体の映像の印象がポジティブな方向に、ネガティブな音楽をつけた刺激では全体の映像の印象がネガティブな方向に傾いた。このことから、背景音楽が映像作品全体の印象に影響を及ぼすということが示された。特に、曖昧な映像においては、音楽情報が強く働き、一方で、映像自体が明らかにネガティブな印象を持つ場合は、音楽の影響が少ないことが示された。更に、ストーリーの結末予測についても同様に、曖昧な映像については音楽の印象の影響を強く受け、映像自体に明らかにネガティブな印象があるものは、音楽よりも映像自体の印象の影響を強く受けるという結果が得られた。つまり、映像が曖昧なものほど、音楽の影響を強く受けると考えられる。これは、映像と背景音楽の交互作用が存在するということを示している。

 本研究では、背景音楽が映像全体の印象、ストーリーの結末予測に及ぼす影響を示す結果が得られた。この結果は、Boltz(2001)の音楽と登場人物の解釈及び映画の記憶に関する実験結果と一致し、このテーマにおける先行研究の結果とも矛盾しない。つまり、背景音楽が映像全体の印象形成、ストーリーの結末予測を決定するための手がかりとして用いられているということが示され、更に、映像自体の印象の曖昧さにより、背景音楽が手がかりとなる割合が変化することも示された。本研究では、ポジティブ−ネガティブを軸に背景音楽が映像の印象やストーリーの結末予測にどのような影響を与えるのかについて検証したが、今後の研究では、例えば、「快‐不快」「調和‐不調和」などの他の側面にも焦点をあて、より効果的な背景音楽の使い方について知識を体系化させることが望まれる。

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