Quantitative Psychology of Cultural Taste
 

阪大感性情報心理学研究室>論文>abstract

背景音楽の挿入時点が映像の印象に及ぼす影響について

 近年のオーディオ・ビジュアル(AV)メディアの発達に伴い、AVにおける視聴覚の相互作用を実証する研究が多く報告されており、中でも時系列的観点から検討を行う研究も数多くなされている。しかし音楽が映像への予測に与える影響についての研究は少ない。背景音楽は挿入されている間の映像だけでなくその次にくる映像への予測にも影響することがBoltz, Schulkind, & Kantra(1991)やDraguna・中村・長岡・小森(2001)等により報告されている。本研究はこれを受けて、背景音楽は、挿入されている間の映像だけではなく、次の映像も含めた映像全体に影響を及ぼすと仮定する。背景音楽がある映像の一部分に先んじて挿入される場合、その映像の一部分が、音楽が与えた予測通りである場合と、音楽が与えた予測と異なる場合では、映像全体の印象は異なる、という仮説をたてこれを検証することが本研究の目的である。

 本実験に使用する音楽刺激を選定するために予備実験を行った。被験者は本実験で使用する2種類の映像刺激と複数の音楽刺激を視聴し、映像刺激の後半部分の印象と音楽刺激全体の印象を評定した。映像刺激は異なる雰囲気を持つ連続した二場面を含むようなものを使用した。音楽刺激はできる限り一定した印象を与えるものを使用した。その結果によって、各映像刺激の後半部分と同方向もしくは異なる方向の印象を与える音楽刺激を選定し、背景音楽として組み合わせた。

 最終的に本実験用の刺激として、2種類の映像に対して、3パターンの背景音楽の挿入パターンを組み合わせて合計6種類の映像刺激を作成した。背景音楽の挿入パターンは、

�前半部分には背景音楽を挿入せず、後半部分には映像の後半部分の印象と同方向の印象の背景音楽を挿入する

�前半部分は映像の後半部分の印象と同方向の印象の背景音楽を挿入し、後半部分は映像の後半部分の印象と同方向の印象の背景音楽を挿入する

�前半部分は映像の後半部分の印象と逆方向の印象の背景音楽を挿入し、後半部分は映像の後半部分の印象と同方向の印象の背景音楽を挿入する

の3パターンである。本実験において被験者は6種類全ての映像刺激を視聴し、一つ視聴する毎にその映像刺激全体の印象を評定した。映像刺激の再生順は6種類全てが被験者毎にランダムになるように調整した。また被験者は全ての映像刺激を視聴し終わった後に、3種類の背景音楽挿入パターンに対して、どの挿入パターンの際の映像が良かったか、という評価を行った。

 その結果2種類の映像の両方について、パターン�の映像刺激全体の印象が、パターン�と比べて、パターン�のみに挿入した、映像の後半部分と逆方向の印象の背景音楽の印象に影響を受けていることがわかった。また映像刺激への評価は、一視聴毎に測った印象項目の内の「おもしろい」等の評価因子の項目では3パターンの映像刺激の間に差は見られなかったが、全ての映像刺激を鑑賞し終わった後の評価では、2種類の映像の両方について、パターン�がパターン�・パターン�より良くなかった、という結果が得られた。よって背景音楽の挿入パターンによる映像全体への影響が認められ、本研究で仮説の検証される可能性が示唆されたと言える。しかし背景音楽による主効果の認められた印象項目は「派手な−地味な」等の一部の項目に限られており、大部分の項目では差が見られなかった。その理由として刺激の選定や条件設定に問題があった等実験の不備が挙げられる。


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